2008年6月8日日曜日

1998年10月号「母の肖像」


 遠い記憶の中に、何故か忘れることなく、今まで抱き続けた情景がある。
何歳だったか?幼少時、小学校に入ったかどうかと言う頃。
私は何かで母から叱られて、子供部屋で布団をかぶって泣いていたのだ。
しくしくやりながら、切ない想いを噛みしめていた。
と、襖の開く音が聞こえ、誰かが入ってくる気配がした。
「お母さんだ」私は寝た振りをしたまま、全身で母の気配を探っていた。
母は布団の脇をとおり、私の枕元で座った。
私を起こさないように顔を寄せ、じっと見つめている様だった。
その後私の額にキスをして、そっと部屋を出て行ったのだ。
私は寝た振りをしたまま、甘酸っぱい喜びに満たされて、
そのまま眠ってしまったのだ。

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